水野 隆史 さん
訪問看護ステーションKAZOC
保健師
水野 隆史 さん
訪問看護ステーションKAZOC
保健師
私はサラリーマンを経て看護医療学部に入りました。最初に通った大学のサークルで障害を持った人たちと関わるサークルに入り、その活動を通じて、障害を持った人たちの地域生活の難しさを痛感しました。いずれは彼らに関わる仕事がしたいと思っていましたので、看護医療学部に入ったのは自然なことでした。
看護医療学部では1期生であったこともあり、先生方との距離も近く、よく教授室に行ったり、一緒に飲みに行ったりしました。また、学部生の時に結婚し、先生が複数参加してくださったことも良い思い出です。
看護医療学部卒業後は、病棟で看護師から始めました。いずれ地域に出るつもりでしたので、その武器をもつことが目的でした。10年弱、病棟で看護師をした後、保健師になり、地域で様々な方に出会う中で、精神保健福祉士の資格も取得しました。
保健師時代の若年認知症の人との出会いが私の人生のターニングポイントになりました。30代、40代で認知症になるとはどういうことでしょうか。男性であれば、仕事が難しくなります。ご本人にとっては、行く場所(職場)がなくなります。女性であれば、妻としての役割をこなすことが難しくなります。いずれにしろ、アイデンティティクライシスに陥ります。
その配偶者、家族にとってはどうでしょうか。夫が働けなくなれば、妻が働きに出なければなりません。しかし夫のようには稼げません。40代であれば、住宅ローン、子供の教育費がのしかかり経済的に苦しくなります。妻であればどうでしょうか。夫は仕事に行く前に妻の更衣や排泄の介助をし、朝ご飯を作り、必要な場合はデイサービスの送り出しをして出勤。仕事から帰ってきたら、家事と妻の介護が待っています。子供はどうでしょうか。中学生、高校生の子供が親の介護に直面します。部活や友達付き合いも難しくなり、日々変わりゆく親の姿に直面します。
若年認知症の人は、高齢者の認知症が6人に1人であるのに対し、1万人に4〜5人とマイノリティです。そのため、制度の狭間で支援の手がほとんどありません。私は若年認知症の40代の方と出会い、彼と共に本人と家族の会を作りました。その後、様々な活動を彼らと共に行い、彼らの希望である自宅で家族と共に暮らし続けるというテーマに現在も向き合い続けています。
そうした活動の例を挙げると、『誰でも居酒屋』です。
『誰でも居酒屋』は働きたい、人の役に立ちたい、という希望を持った若年認知症の人が特技の料理を活かし、いずれは給料を稼げる場を作りたい、と考えた私と若年認知症の家族を持つ方が、行き場のない若年認知症の家族を連れてきても働ける場を創りたいと考え、2人でミーティングを重ねて始めたものです。ただ単にお酒好きの若年認知症の人や様々な人が毎回集まり、料理が得意な若年認知症の人が見事な料理でもてなしてくれて、毎回盛り上がっています。
実際の状況はこちら
現在は、ハウジングファースト東京プロジェクトの参加団体で訪問看護ステーションKAZOCで働いています。東京プロジェクトとは「医療・福祉支援が必要な生活困難者が地域で生きていける仕組みづくり・地域づくりに参加すること」を理念とし、「池袋周辺と他の地域でホームレス状態にある人の医療・保健・福祉へのアクセスの改善、そして精神状態と生活の回復」を目的とし、TENOHASIと世界の医療団、浦河べてるの家(東京オフィスべてぶくろ)の3団体によって、2010年4月から活動を開始したもので、KAZOCも後に参加しています。
私自身、ホームレス状態の人のことをKAZOCに入るまでよく知りませんでした。例えば、道路や公園で休んでいる人以外にも様々な理由で漫画喫茶などに長期間いる住所不定状態の人も多数いることを知りました。
現在は、元ホームレス(以後路上)状態の人が再び路上状態に戻らないように訪問看護をする日々です。そこで毎日、楽しく過ごすと共に多くのことを教えていただいています。
路上状態の方は2008〜2009年に池袋にて行われたホームレス実態調査によると、約50%の人たちが何らかの精神疾患を抱えていることが明らかになりました(その調査に基づいて東京プロジェクトが立ち上がっています)。訪問看護をしていても、何らかの精神障害、知的障害、発達障害のある人たち、重複している人たちや親から虐待を受けてきた人たちがいます。
そこで感じていることは「日常の大切さ」です。つまり当たり前の日常生活を送れることです。朝起きて、着替えて、3食食べて、夜眠れて、風呂に入れる、定期的に人と会うこと。今接している方々は、こうしたことが難しい人たちです。その実現として、「まいにち子ども食堂高島平」の理事になりました。365日毎日朝から晩までオープンし、3食提供。子供は無料。大人は朝100円、昼200円、夜300円。大人でもお金のない人からはとらず、食材の提供も行いました。また、好きなだけ好きに過ごしてよいという居場所の提供も行いました。現在は事情があり、弁当配布のみになっています。
今は新たな365日オープンする食堂(子供は無料、大人も低額)と障害のある人の働く場所の複合施設の立ち上げに向けてミーティングを重ねています。
私は「目の前の人が笑顔で幸せで希望を叶える」にはどうすればよいか、を常に考え仕事・活動をしてきましたし、これからも同じです。看護以外の様々な領域の友人の方が圧倒的に多く、そうした人たちとここには書ききれませんが様々なプロジェクトにも取り組んでいます。それも「目の前の人」の生活をどうすればより幸せにできるか、を考え、実践してきた結果です。自分の本当にやりたいことに出会えた自分は本当に幸せだと思います。
看護・医療以外の様々な領域の人たちと付き合うことをお勧めします。それは自分の視野を広げ、助けてくれる友人がたくさん出てくると考えているからです。常識の外に道はあると考えています。
※写真は参加者の許可を得て掲載しています
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