三上朱美(みかみあけみ)さん

1975年  慶應義塾大学医学部附属厚生女子学院本科卒業
1976年  神奈川県衛生学院助産婦科卒業
1976年  助産婦として横浜市内の施設で経験を積む 〜1983年 
1984年〜 結婚後は子育てに専念
1997年〜 13年のブランクを経て、湘南地区の数市にて行政の非常勤として復職
同時に「出張訪問専門助産院 ナイスママ み・か・み」を開設し、訪問指導を行いながら、乳房ケアを中心に活動、BSケアステーションを目指す
2006年  自身の更年期に際してHRTを選択
2011年  メノポーズカウンセラー資格取得

2010年12月から、更年期治療専門の「こうレディースクリニック江ノ島」にて女性の生涯のライフケアサポーターとして活動中。

 

助産師を目指したきっかけ

 母が横浜のけいゆう病院に助産師として務めていましたので、小さい頃から、自然と助産師を目指すようになりました。厚生女子学院卒業後、縁あって、けいゆう病院に勤務することになりました。その後、無痛分娩一筋でしたので自然分娩の病院も経験してみたいと思い、いくつかの病院にも勤めました。

 

開業のきっかけ

 結婚後は13年ずっと家庭にいて2人の子どもを育て上げました。下の子が中学生になるときに近所の小児科に看護師(パート)として働き始めました。復帰後、行政で助産師として訪問をしている先輩と出会い、訪問助産師として働くお誘いを受けました。それがきっかけで、訪問助産師として、妊婦さんや育児中のお母さんのケアを支援するために家庭訪問をするようになりました。お母さんの中には、おっぱいマッサージを必要としている方がいます。おっぱいマッサージができるように、茅ヶ崎市に、助産師としての開業届を提出し、本格的に訪問助産師としての活動を始めました。

開業助産師のおもしろさ

 勤務をしないで開業をする、自分でやるということは、自分の考えをストレートに出せます。病院など施設の方針を気にせず、自分が考えている指導ができます。しかし一方で、正しい知識が必要です。私が行った指導を実行したお母さん方や子どもさんに健康被害が出てしまったら困ります。だから、常に新しい知識を吸収しようと努力をしています。雑誌や新聞記事にはさまざまな情報が載っているので、確認しています。さらに、最新の医療や機械はどうなっているのか、医師や看護師はどうやってお母さんたちに接しているのかを知ることが役立ちます。そのためには、施設内での経験をするのも大事だと考え、病院での仕事も続けています。

 

若い世代から女性の健康を

 今、子どもを産む環境が大きく変化しています。健康な子どもを産むためには、女性が健康であることがとても重要です。最近の女性はスレンダーな人が多いですね。スレンダーな身体を保つために、ダイエットをしている人が多いですね。しかし若い頃に過度にダイエットをすることが、不妊の原因のひとつとなっていると言われています。過度のダイエットは子宮や卵巣の成熟を阻害するのです。高校生、中学生はふっくらしていて当然です。女性ホルモンがきちんと出ているから脂肪がついて女性らしい体形になるのです。いずれ痩せるのでダイエットをする必要はありません。また、女性は体を冷やしてはいけないと言われています。しかし、最近では、冬でもおしゃれ優先で薄着をして体を冷やしている女性も多いですよね。自分の遺伝子を引き継いだ子どもが欲しいなら若いときから体を大切にしていくことが必要です。子どもがほしくて不妊治療をしている人が増えていますので、不妊治療のためのお金を助成することも必要ですが、もっと正常に生めるような環境と教育をしていくことも大切だと思っています。

 

更年期の体の変化とホルモン療法

 15年前に助産院を始めたときには20代のお母さんが中心でしたが今は30代が大半です。不妊治療で40代や50代でお母さんになる人もいます。更年期で生んで育てるという方が増えています。

 更年期になると、体の具合が悪くなったり、骨粗しょう症になり、血管の老化も進みます。いずれも女性ホルモンの減少が関係しています。骨粗しょう症に関して言えば、女性ホルモンは破骨細胞と関係があって骨の再生のために重要であることが分かっています。無症状でも女性ホルモンの値がさがれば骨は薄くなってきます。40代になったら、症状がない場合でも、婦人科に行って、女性ホルモンをはかってもらうのがいいと思います。40歳以降は更年期のホルモン治療に保険が効くため、月々2、3千円の費用でホルモン治療を受けることが出来ます。更年期症状がなくても女性ホルモンを少しでも加えると、骨が薄くなりません。また、40代くらいの場合、ホルモンバランスの乱れを治すことが目標になるので、女性ホルモンの投与ではなく、サプリメントや漢方薬でホルモンのバランスをとることができます。その後、本当に更年期になった時にホルモン治療を開始するという方法もあります。日本では、ホルモン治療はがんになりやすい、といった誤った情報が広がってしまっている為、普及率が2%と低いんです。しかし諸外国では普及率50%と言われています。タイやベトナムなどアジア圏でも50%です。怖がらずにホルモン治療を受けていただきたいと思います。

 

女性のトータルヘルスケア

 更年期の中で子どもを産むということは、すごく大変でリスクが大きいことなんです。

 更年期に伴って、母親である自分の体調や精神的状態も変動しやすいために、産後は児虐待や育児放棄が増えているという事実もあります。また、母親になった時点で、当人のお母さんが認知症などで介護が必要になるなど、育児環境が大きく変わっています。その上、お母さん自身も虐待された経験があると、子どもを虐待する傾向にありますね。また、何度も体外受精を繰り返し、お金をかけて、やっとできた子どもなので、妊娠や出産することがゴールになってしまっているケースもあります。自分が不妊と知って、社会的喪失感を感じるということもあります。

 現場にいてこのような課題を感じ、私たち地域の助産師に何かできるのではないかと考え、出産から更年期までの女性のトータルヘルスケアが重要であると考えるようになりました。

 プレ更年期は30代後半からといわれています。赤ちゃんを生んだ30代のお母さんは、更年期なんてまだまだ先、と思っていらっしゃる方が多いのですが、子どもさんが生まれて間もなく更年期の症状が出る方もいらっしゃいます。お母さんの中には実は、といって相談してくる方もいらっしゃいます。更年期学会にも参加するようになりました。これは更年期の女性のQOLをあげるために医師だけではなく、看護などのコメディカル、受付の人も含めてトータルに女性を診るという考え方の学会です。また、更年期の女性のカウンセリングを行うメノポーズカウンセラーの養成もおこなっています。更年期にも早くから対応すればより健康に女性として生活でき、将来年をとったときにさらに健康に長生き出来る道があります。これまでにも述べてきたように、若いときから知識を持って、健康を考えた暮らしをすることはとても重要であると感じています。

 現在東京都の中央区の依頼を受けて、プレ更年期の話をしています。中央区にて、生後4ヶ月から1歳の子どもがいるお母さんを対象に、検診とママのヘルスチェックを行い、その中にプレ更年期という項目を入れて話しています

 女性の、誕生から更年期まで幅広い期間の健康についてお話しするのは私の大切な仕事の一つで、このような機会を大切にしていきたいと考えています。

 

地域と臨床のパイプになりたい

 縁あって現在、こうレディースクリニック江の島という更年期治療と女性のトータルヘルスケアとビューティサポートをするクリニックでも週2回くらい働いています。

 また、地域の開業助産師として赤ちゃん訪問もしています。臨床という場では、病院の中で完結していることが多いと思います。しかし、出産して退院された後、私が新生児訪問をすると、「あれも聞きいてないの?」「これも知らない?」と驚くことがたくさんあります。もう少し病院の中でフォローしておいてほしかったな…と感じてしまうことも多々あります。病院の中でわからないことが訪問では分かるし、逆に訪問ではわからないことが病院で発見できたりします。両方で働いた経験を生かして、これからもずっと臨床と地域のパイプになっていきたいと考えています。

 

後輩へのメッセージ

 看護職は、一生できる仕事で、仕事以外でも知識を活かすことができると思います。例えば、企業に勤めても看護の知識は何らかの形で生かしていけますよね。看護師として働いていなくても困っている人がいれば健康アドバイスしてあげることが出来ます。

 私のような助産師であればお産について話せるし、病院に勤めることだけを考えなくてもいいと思います。病院で働くことも必要ですが、病院の中にいるとどうしても視野が狭くなります。もちろん自分が何をやりたいか、ということも大切です。私は知識を少しずつ世の中に落としていくことがとても重要なことだと思っていますので、皆さんもどんどん隠さずに自分の持っている知識を出してほしいと思います。